ひとり歩きも悪くない
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 1.たからもの

 2.恐るべき!
  怒りのエネルギー

 3.私に乾杯!

 4.怖いものはない!

 5.星に気合いを!

 6.焼肉の呪縛

 7.結婚までのカウント
  ダウン

 8.最後のメッセージ

 9.母か女か・・

 10.派遣だから出来たこと

 11.孤独なクリスマスに
   さようなら

 12.母との距離

 

 

 

 


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様々な理由からひとりで頑張って生きている女性達の、心のつぶやきと体験を
ショート・ショ-トのストーリーにしました。
これは実際のエピソードをもとにした、フィクションです。

ひとりで頑張ってる女(ひと)に読んでもらいたい!



たからもの

 「今度パパいつ来るの?」
娘の晴香がこの質問をしなくなったのはいつ頃からだろうか。
私達が離婚したばかりの頃、テレビドラマの中でお父さんが子供と一緒に遊ぶシーンが出てくる度に、晴香は口をとがらせ無口になった。子供心にも『言いたいことがあってもいっちゃいけない。』と我慢していたのかもしれない。今まで一緒に暮らしていた父親が、ある日突然自分の前から消えたのだから・・。
晴香はまだ小さいからと、別れた理由は教えなかった。今思えば娘と向き合うのを避けていたのかもしれない。当時7歳だった娘に、理由を説明してもわかるはずはない、と勝手に決めてかかっていた。
そして晴香ももう小学校6年生、月に一度の父親との面会も、最近では慣れっこになっていた。面会日は娘のスペシャルデー。普段買えないものをおねだりし、大好きなものを御馳走してもらう。でも昔ほど嬉しそうにはしゃがなくなった娘を見ていると、思春期になって親離れが始まったのかなと淋しくなったり、もしかしたら、私の顔色を伺ってる?などとついあれこれ考えてしまう。

「明日は何ご馳走してもらうの?」
「うん、まだ決めてない。」
「食事の後お祭りに行くんでしょ。はぐれないようにしなさいよ。」
「わかってるよ。」
父親に会えると嬉しそうにはしゃぐ娘を、今まで何度も淋しい思いをしながら見送った。でもつっけんどんに答える娘を見るのも、なんだか心苦しかった。娘にこんな思いをさせている私達の責任を、『親のエゴ』と言ってしまえばそれで終わりだが、晴香にだけは自分の味方になって欲しかった。 
私は、端から見れば友達みたいに見えるだろう娘との関係を、絶対に崩したくはない!とずっと怯えていたのかもしれない。

 翌日私の用意した浴衣を着て、晴香は父親と手を繋ぎ、人込みの中に消えて行った。娘が戻ってくるまでの数時間、たった数時間が、私の中ではいつも長く長く感じられた。
離婚の理由はもうとっくにバレてるだろうな、と思うことがある。何気ない私の愚痴を敏感に感じ取り、娘は娘なりに判断しているに違いない。そんな晴香をすごく頼もしく感じ、大人になったなぁと嬉しくも思う。今では私の方がはるかに娘に頼って生きている。もしかしたら、娘はそれを一番敏感に感じ取っていたのかもしれない。

 「ただいまー。」
晴香が大きなぬいぐるみと、お祭りで買ってもらった綿菓子とヨーヨーを持って帰ってきた。
「晴香楽しかった?」
『楽しかったよ。』と言われてもちょっぴり悔しくて、『楽しくなかった。』と言われても心が痛む。そんな気持ちを察して晴香は、
「今度はお母さんと行きたいな。」
「そうだね。一緒に行こうね。」
娘にとっての月に一度のスペシャルデーは、私にとってはちょっぴり淋しくてほろ苦い日だった。
「それからね、お母さんにもおみやげ買ってきたんだ。」
晴香は縁日で買ってきたおもちゃの指輪を差し出した。
「自分のお小遣いで買ったんだよ。お母さん!一緒にしようね。」
すぐに壊れてしまいそうなそのおもちゃの指輪は、娘とお揃いのペアリングだった。晴香の小さな指にはめられたお揃いの指輪。それは私が持っている全てのものの中で、一番高価な「たからもの」。

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