ひとり歩きも悪くない
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 1.たからもの

 2.恐るべき!
  怒りのエネルギー

 3.私に乾杯!

 4.怖いものはない!

 5.星に気合いを!

 6.焼肉の呪縛

 7.結婚までのカウント
  ダウン

 8.最後のメッセージ

 9.母か女か・・

 10.派遣だから出来たこと

 11.孤独なクリスマスに
   さようなら

 12.母との距離

 

 

 

 

 


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様々な理由からひとりで頑張って生きている女性達の、心のつぶやきと体験を
ショート・ショ-トのストーリーにしました。
これは実際のエピソードをもとにした、フィクションです。

ひとりで頑張ってる女(ひと)に読んでもらいたい!



母との距離

 五年前、正社員だった会社が突然倒産し、しばらく派遣社員として働いたが、安定しない将来に不安を覚え、ヘルパー2級の資格を取り介護の仕事を始めた。事務職からの転職で、いつ迄続けられるか自信はなかったが、ようやく仕事にも慣れ、介護の仕事を続けて行く決心がついた。そして次のステップアップをするために、私はヘルパー1級を取るか、介護福祉士を取るかで悩んでいた。

 そんな頃、要介護5のみつさんが、私のお客様のひとりに加わった。初めてみつさんに会った時、面影が何となく母に似ている・・と感じた。年齢も母よりひとつ上の75歳だった。体は不自由だが、頭はしっかりしているみつさんの、「ちゃんと○○してくれた?」の少し上から目線の口癖を聞く度に、気が強い母を思い出した。

  母とは子供の頃から折り合いが悪く、父が亡くなってからは、たまに電話はするものの、実家には4年帰っていなかった。仕事が忙しいのと、交通費が高いから、を戻らない言い訳にしていたが、母に会いたくない、というのが本音だった。顔を合わせればけんかになるなら、いっそ会わない方がお互いのためだ。自分にそう言い聞かせ、私はずっと母から逃げてきた。

  なのに週三回、みつさんの家を訪れる度に、母を思い出してしまう。最初はそれが苦行のように思えた。母を避けてきた私に、神様が与えた罰なのか、と。でも「調子はどうですか?」とみつさんに声をかけ、「今日は調子がいいわ」と言われると、心から良かった、と思う自分がいた。私はいつの間にかみつさんと母親を重ね合せていた。みつさんに尽くすことで、母との距離を縮めようとしていたのかもしれない。

 その後ケアマネージャーの薦めもあり、私は国家資格である介護福祉士を取ることにした。しばらくは忙しい日々が続くだろう。3ヶ月前の電話で、「腰が痛くって2階に上がるのが辛いのよ」と、いつになく弱気だった母。私が仕事で磨いてきた介護のスキルは、いつか母の役に立つだろうか? 母をずっと避け続けてきた私が、ふとそんなことを考えていた。

 その日の夜、私は母に電話をかけた。「もしもし、お母さん?・・今度のお盆休み・・帰るから。・・・ところで、腰の調子はどう?」電話の向こうで、母のすすり泣きが聞こえた気がした。

 


 


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